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医療マネジメントセミナー(平成26年度第3回)~交渉学を学ぶ~

「交渉学を学ぶ」
第3回医療マネジメントセミナー


 滋慶医療科学大学院大学と滋慶医療経営管理研究センター主催による「医療マネジメントセミナー(平成26年度第3回)」が7月6日(日)に、大阪市淀川区の同大学院で開かれました。石松一真・同大学院准教授(以下石松氏)は「医療現場において知っておくべき個人の特性」と題して、秋沢伸哉・立命館大学大学院経営管理研究科教授(以下秋沢氏)は「医療事故と交渉学」と題して、それぞれ講演を行い、“人間心理に基づく対話法”について、説きました。



―自分・相手を知る~メタ認知が重要―


石松教授

 石松氏(専門は認知心理学)は、「~ひとをしり、ひとをいかす~」を副題に挙げて、「自分を客観視する能力として、“メタ認知”の重要性」を訴えました。
(注)メタ認知=自分自身の思考や認知についての思考。自己の特性を自覚(自己認識)し、状況に応じて適応的な行動をとる(自己調整)際に重要な役割を担っている。


 メタ認知に関するケースとして、「高齢運転者に対するイメージ」を挙げました。65歳以上の高齢運転者について、どのように認識しているのか。「周囲の状況に注意を払わない。反応が遅い」と認識しているのは、65歳未満では6割から7割になります。ところが、65歳以上では5割以下となり、半数以上の人は加齢に伴う注意機能や身体機能の変化を認識できていない可能性があります。




―人は注意力を過信、期待過剰―


授業風景

 「人は注意力を過信している。自分の能力を買い被っている」場合が多いという。ある場面において状況変化が生じた場合、自分なら気づくと予測(98%)他人でも気づくと予測(92%)したケースでも、実際に気づいたのは46%だったという研究(Levin et al.,2000)を紹介。
石松氏は「自分にも、他人にも期待し過ぎている」として、(チーム医療などの際に)「自分のこと、相手のことをどの程度理解しているか」を考えて、「自分を知る、相手を知る」ことの大切さを説いています。




―気がきく~医療安全にいかす―


 一方、石松氏は『気がきく』ことに関して、認知神経心理学の見地から研究しているという。広辞苑によると「気が利く」とは、「その場に応じて、適切な判断が素早くできる」或いは「心が行き届く」とあります。この両方の意味合いから、石松氏は「社会で求められているコミュニケーションスキル」であり、「チーム医療による医療安全やマネジメントにも役立つ」として、研究を進めています。例えば『気が利く医療従事者』は、「社会的スキルが高く、日常生活の失敗傾向が低い」ことを示唆するデータが得られているとのことです。


 以上のことから、石松氏は「ひと(自分・相手)をしり、ひとをいかす」「気がきく」スキルを身に付けて、「メンバーをうまくいかして、医療安全に取り組むことが大事」だとしています。




―医療業界と医療事故―


秋沢教授

 秋沢氏はまず、医療の現状を振り返りました。日本は、医療者数が圧倒的に不足している一方、年々手術数が増大し、医療者一人当たりが担当する患者数が増加する負のスパイラルが発生していること、医療に対する国民の目が厳しくなり、過酷な勤務状態のなかで高い精度の医療が求められる、医療業界はまさにリスクに囲まれた特異な業界であることを強調しました。

 医療事故の3大要素として、第1の投薬や患者の取り違えである単純エラー、第2の医療者の技術対策は進んでいるものの、第3の「医療的に問題はないが遺族が納得できない」コンフリクト(対立)については深刻な問題であると指摘しました。同じ事象でも訴訟になる場合とならない場合の差異は何か。検討すべき英語論文も具体的に提示され、その研究結果に会場は大いに沸きました。




―雪合戦からキャッチボールへ―


 訴訟システムは、当事者が各々の立場から正当性を主張する場であり、感情の対立を生みやすい構造にあります。勝訴しても請求額が減額されれば満足できず、敗訴の場合はさらに傷つくこととなります。生命・身体と直接関係する医療訴訟は感情対立が激しいため、両当事者に禍根を残すのみで真の解決にならなりません。「医療者にとって訴訟対策こそが重大な関心事となり、医療の質向上にも寄与しない」と主張しました。「交渉学こそが具体的な解決策を提示できる」と示唆しました。会話は「キャッチボール」に例えられますが、医療訴訟における対話は雪合戦となりがち。『雪合戦からキャッチボール へ』と意識を改革することが必要という。



―経営大学院の交渉学講義で実際使用されるケースを議論―


 秋沢氏は修了した“ハーバード交渉学プログラム”におけるケース(事例研究)などを実際に参加者間で議論しました。多様な意見が飛び交い、ハーバードの模範回答よりも参加者に説得力ある回答もあり、会場は大変盛り上がりました。その後の丁寧な解説により示唆に富む交渉技法を学ぶことができました。


 順調に進行していた交渉が突然、破綻してしまうことがあります。交渉相手の「心を動かす」ことこそが重要とし、その手法を紹介しました。感動から共感を呼び起こすことが交渉にとって望ましい結果をもたらすとの実証データを多数示しました。コストのかからない明日から使える交渉手法を得て、参加者は初めての「交渉学」に満足しました

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