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―医療の質・安全学会レポート―

No.15 医療質安全学の確立に向け、白熱した議論
―医療の質・安全学会レポート―

教員による医療安全の提言シリーズ ⑮

医療質安全学の確立に向け、白熱した議論 ―医療の質・安全学会レポート―

学校法人・大阪滋慶学園
顧問
越智道雄



 医療の質・安全学会の学術集会が11月23日―24日に埼玉県の大宮ソニックシティで、「医療質安全学の確立―社会技術としての医療の基礎構築―」をテーマに開かれました。今回で7回目となりますが、全国から医師、看護師を中心に2千数百人の医療関係者が参加して、白熱した議論が展開されました。

 同学術集会では、「医療の質・安全に関する知識体系の開発プロジェクト」「電子カルテと医療の質・安全」などをテーマに13のシンポジウムのほか、共催セミナー、一般口演、ポスター発表(191件)など合わせて257件もの医療安全に関する情報が発信されました。
 
 冒頭の会長講演で飯塚悦功氏(東京大学大学院工学研究科)は、「工学分野、産業側から見ると、人間はミスをするものと認識している。(医療の世界においても)ミスを受け止める管理マネジメントが大事」だという。そして医療界の不思議として「①品質概念=顧客志向・目的志向②個人的能力への依存=プロセス管理・標準化③普遍化技術の整理④改善・改革へのインセンティブのない世界」など、問題点を指摘されました。

【医療安全学の教科書作成に着手】
 同学会には社会技術としての医療を具現化するため、科学的基盤としての『医療質安全学』と呼ぶべき学の体系の確立が求められています。飯塚氏は「この社会ニーズを踏まえて、医療の質・安全に関する教科書の作成に着手する。医療質安全学の知識体系の開発に向けて議論して欲しい」として、シンポジウムをスタートしました。

【ものづくりなど他分野のノウハウを活用】
 まず、上原鳴夫先生(東北大学)は、「医療の場が患者中心になっていないことを痛感した。ものづくりのシステム、品質管理の考え方が医療でもマッチする。使えるノウハウは何でも取り込んでいく」との見解を示されました。そして「病院にとって製品は何か」と問題提起をされました。
 さらに「患者本位のケアのノウハウは何でも活用する。産業分野などで役に立つものが潜在的にある。そこにあるのに、(医療分野で)使えていない。品質管理、マネジメント技術など他の領域から学ぶことも多い」として、問題はそうした固有技術をマネージする専門家の育成が大事という。

【プロセスの標準化と実践訓練が必要】
 嶋森好子先生(東京都看護協会)は「プロセスを引き継ぐ際に、コミュニケーションエラーを起こしやすい。曖昧文化を良しとする風土がある。思い込みを含めてコミュニケーションの不備が問題」として、「医療者それぞれの質を高めるとともに、クリニカルパスなどのようにプロセスを標準化することが大事」という。
 また、「プロセスを決めても人によってはそのとおりにできない。より安全な仕組みに対して現場で確実にやれるような訓練(教育)が必要」だという。それに「医療安全の確保には多くの課題があり、課題解決の知識体系をつくるには、医療安全管理に携わる現場の人たちの参加が不可欠」として、ボトムアップの重要性を説かれました。

【知識体系とDOのサイエンス】
 武田裕先生(滋慶医療科学大学院大学)は「医療安全学の構築とその体系化された教育が、今後の医療安全の実践に重要です」とした上で、「知識をどう活用するかは目的が大事。何々が何々であるというのはBEのサイエンスだが、(医療安全においては)何々を何々するという『DOのサイエンス』でなければならない」と持論を展開されました。そして、知識体系とともにDOサイエンスのエンジンとの2つを持つ必要があることを強調されました。
また、米国ノースウエスタン大学(修士課程)、メイヨークリニック(卒後研修)と滋慶医療科学大学院大学との医療安全管理学の教育体系の日米比較を行なわれました。教育カリキュラムでは医学、看護学、薬学などはテクニカルスキル(タテ型)として卒前および卒後研修で学ぶ。コミュニケーションなどノンテクニカルスキル(ヨコ型)は卒後研修で身に付ける。
「(医療安全には)タテ・ヨコ両方のスキルが必要」で、とくにWHOのカリキュラムにおいて、職種間連携を意識したコアカリキュラムが重要な視点を提供していると提案されました。また、人材育成の場として「大学院」における研究も重要であると説かれました。

【医療職、プロとしての使命感】
 小泉俊三先生(財団法人東光会七条診療所)は「医療は多職種のチームによる協働作業として実践されており、コミュニケーションのあり方が(医療安全)の鍵を握っている」ことを強調されました。
 また「チームメンバーの一員として、あるいは集団レベルにおいても医療職(Profession)としてのミッションを自覚することが必要。専門診療に携わる医師の職人的発想を転換して、学ぶ組織におけるチームの一員としての自覚をもった医療職の育成が課題」だと説かれました。さらに「これからのグッド・ドクター(良医)とは」と問いかけられました。

【知識、技術、技能の可視化】
 飯塚会長は、医療の質・安全に関する知識体系の構築には、「広く深い知識コンテンツの存在とともに、蓄積されている知識、技術、技能の可視化が必要」だという。知識要素としては、①思想、哲学、基本的考え②臨床知識、技術、医療マネジメント、医療制度③手法、技法、方法論④医療組織における推進、運用の方法論―という4つの領域が考えられる、とされています。
 そして、コンテンツだけでなく、構築のプロセス、合意形成のプロセスをどうするかも課題だという。



【筆者見解】
 先生方の意見を集約しますと、医療安全の確保には、医学、看護学、薬学など医学領域の知識(テクニカルスキル)を学ぶ一方で、コミュニケーションなどノンテクニカルスキルを磨くことも重要となります。「学んだ知識(医学)に磨きをかけて知恵として活用、実践(医療)に生かしてこそ、良き診療」と言えるのではないでしょうか。
また、チーム医療が重要視される中で、ビジネス社会での「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」といった基本業務、計画→実行→点検→改善という「PDCAサイクル」も大切です。それに品質管理、顧客管理、情報管理、リスクマネジメントなどモノづくりや輸送機関、他分野の「安全ノウハウ」を医療分野に応用することも必要となります。
学会主導によって、医療関係者と患者参加を含めて「医療安全知識の体系化」が進めば、教育および実践に大いに寄与することと期待されます。2日間、7会場に渡って、真剣な議論が展開され、「医療の質・安全」を高めることを願っています。


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