トップ > 教員による医療安全の提言シリーズ > No.22 健康障害の予防と安全のあり方

No.22 健康障害の予防と安全のあり方

教員による医療安全の提言シリーズ 22

健康障害の予防と安全のあり方

滋慶医療科学大学院大学
教授(医学博士)
中迫 勝



 はたらく人々の健康は「安全のあり方」を考える上で非常に大切で、社会的に重要な課題です。というのは「安全」は、はたらく人々の命と健康を守り、はたらく人々が「安全」をつくり、「安全」を実践し、日常的に「安全」と共存しなければならないからです。


 ところが、いまは「人間らしい労働」が置き去りにされてしまって、過労、過労死、過労自殺、精神障害、メンタルヘルス不調、健康障害などの社会病理的現象が日常茶飯事になってきています。私たちの労働する力は、仕事の単純化、高速化、高密度化、責任の重大化に翻弄され、私たちの心身の不快感、健康障害、予期せぬ災害、事故、ミスの発生、患者をみる労働の安全・衛生の希薄の流れが顕著になり、容易に食い止めることはできません。


 私たち人間は「疲れきってしまう」とだんだんと無気力になって、受身になって、考えることをやめてしまうと言われています。こうなれば、みんなや自分さえの「安全」 そして「健康」に無関心で、私たちの時代に必要な安全を創意し、工夫する心身の力を失ってしまうことになります。


 では、「安全」はどのように機能しているのでしょうか。「安全」は、高度技術に基づいて設計されているとは言っても、ヒトの心身の力に任され、しかも「身体的に」、「精神的に」そして「社会的に」健全である状態のヒトを前提に設計されていることを忘れてはなりません。過剰負荷や過労を前提に設計されていません。まして、高齢者労働を視野に入れたものでもありません。


 本当の安全はどこにあるのでしょうか。それは「FITTING THE TASK TO THE MAN」という原理・原則です。職業性健康障害、産業疲労のリスクも安全のリスクもこの原理・原則から逸脱すればするほど高くなっていきます。これまでの「ものづくり」の生産技術の原理・原則を基準にした安全からいかに脱脚するか。


 ヒトの生理学、解剖学、心理学を統合したエルゴノミクスをもとに、はたらく人間の心身の原理・原則に合わせて、 いいかえれば「ヒトに合わせて仕事をデザイン」する。このような「社会科学的設計」思想から健康障害の予防と安全を考え、快適職場をデザインすることが医療安全に与えられた課題でしょう




重要ポイント
① 安全を創意・工夫
② 生理学、解剖学、心理学を統合したエルゴノミクス
③ ヒトに合わせて仕事をデザイン



(注)エルゴノミクス
ギリシャ語のergon(働く)とnomos(自然の法則)との造語で、エルゴノミックスとも言う。わが国では人間工学と訳されている。人間が快適で使いやすいモノ(道具)にするための設計、デザインのこと。また、人間の生理的、解剖学的、心理的な特徴をもとに「人間にとっての使いやすさ」という視点から「疲れやストレスを感じないで」、機械や装置などのあり方を研究する学問。



中迫 勝
教授
中迫 勝 (なかせこ・まさる)
プロフィール

 1940年生まれ、奈良県出身。1964年大阪市立大学文学部卒、66年同大学大学院文学研究科心理学修了、文学修士、86年関西医科大学医学博士。
 67年関西医科大学医学部衛生学・公衆衛生学講座助手、79年スイス連邦工科大学衛生学労働生理学研究所客員研究員、90年同大学医学部衛生学講座助教授、94年大阪教育大学教育学部人間行動学講座教授、98年同大学大学院教育学研究科教授、02年独立行政法人労働者健康福祉機構大阪産業保健推進センター産業医学相談員、06年スイス連邦工科大学組織労働科学センター客員研究員、08年京都工芸繊維大学特任教授。11年本学教授。
 著書に「産業人間工学・快適職場をデザインする」(エルゴ出版ユニオンプレス)「健康で安全に働くための基礎・ディーセントワークの実現のために」(文理閣)他。


バックナンバー一覧はこちら

教員による医療安全の提言シリーズ