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No.24 医療機器の安全管理は役割分担で

教員による医療安全の提言シリーズ 24

医療機器の安全管理は役割分担で

滋慶医療科学大学院大学
教授(工学博士)
小野哲章



医療機器の安全管理には直接使用担当者と機器管理担当者の協力と役割分担が不可欠です。
 要約すると、『機器使用担当者は「正しく、安全に使う」、機器管理担当者は「その環境を整える」』ということに尽きます。

 そこで、それぞれの立場の方々に、それぞれ3つの提言を示しておきましょう。
まず、医療機器を使って患者さんの健康の回復と維持に努めておられる医療従事者の方々は、使っている医療機器に関して次の3つを知ることに努力してください。


①正体を知る
 その医療機器が何をするものかをまず理解してください。患者さんの生体情報を集めるものなら、何をどうやって集めているのか。治療器なら、患者さんのどの部分を何で治療しようとしているかを理解しましょう。治療器の場合は、とくにその使用エネルギーの危険性を理解しましょう。


②操作の意味を知る
 まずAのつまみをONにし、次にBのつまみを3に設定し・・・という覚え方では、次に使うときには「いくつだったかしら」と混乱します。それぞれのツマミが何を設定し何を調整するのかを知る努力をしましょう。「機器は理解して使う」これが基本です。


③異常を知る
 事故は異常状態で発生します。「いつもと違う音、におい、光・・が出ている」という、「いつもと違う」ということの発見が早期の異常の発見につながります。病気の早期発見・早期治療は、機器の病気(不具合、故障)の場合も同じです。異常の第一発見者は普段使っている人です。もしかすると、いつもその機器を装着されている患者さんのほうがいち早く異常に気づくかもしれません。


 次に、機器の安全管理に専門的に取り組むべき、臨床工学技士などの安全管理担当者への3つ提言です。


①適切な導入評価
 医療機器はその場にあった性能や安全性の備わったものを選択し導入することが、第一の安全対策です。適切な導入ができれば、安全管理の半分は達成されたと思ってかまいません。ここで「適切」とは、一番高度なものという意味ではありません。その現場の医療ニーズに適合し、かつ、そこの使用者の種類と質に適合しているという意味です。


②適時の安全教育
 「正しく安全に使う」コツをしっかり教育しなければなりません。医療機器の使用者は、機器を使う患者さんの専門家ですが、機器の専門家ではありません。もともと、機器の中身についてきちんと教育を受けてきているわけではありません。そこで、機器をよく理解した安全管理担当者の登場です。何を教育するかは、先に示した機器使用担当者への3つの提言の内容を教育するのです。①の「導入」に加えて、この「教育」ができれば、あとの半分の安全管理は達成されたと思ってもいいでしょう。


③日常の保守管理
 機器管理担当者は医療機器の点検と調整がメインの仕事と思っているかも知れませんが、これが機器安全管理に果たす役割や効果は10%程度のものです。たいていの機器は壊れないので、点検は必要なことですが、ある意味無駄なのです。でも、早期発見・早期治療のために、99の無駄を覚悟で1の異常発見に努めるのが保守管理なのです。
 機器管理担当者がしばしば陥る落とし穴が「テスタやチェッカを使って保守点検してれば安全は確保できる」という「思い込み」です。機器使用担当者からの情報を丹念に聞き、その中に異常を発見する洞察力を養うことこそ保守点検の極意なのです。その異常の原因をつかみ、他の機種のその部分を点検するのが保守点検の近道なのです。
 これには、機器の工学的理解が必要ですから、臨床工学技士などの「臨床現場の工学者」の活用が必要で、縁の下の力持ちとして、機器使用担当者の医師・看護師のサポートのために工学的な力をフルに発揮しなければなりません。


 最後にもう一度言いましょう。
 『機器使用担当者は「正しく、安全に使う」、機器管理担当者は「その環境を整える」』ということの努力を傾けてください。「安全」は空気のように「あたりまえのもの」です。誰にもほめられないのですが、なくなって初めて「ありがたみ」がわかるものです。その「あたりまえのもの」を維持していくためには、互いの協力と役割分担が必要なのです。明日の患者さんの笑顔のために。



医療機器の安全管理は役割分担で

イラストは筆者(小野哲章)の著書「MEワンポイントアドバイス
―イラストで見る医療機器とのつきあい方」(秀潤社刊)



小野 哲章
教授
小野 哲章 (おの・のりあき)
プロフィール

1944年生まれ、横浜出身。1967年上智大学理工学部卒、72年工学博士。
 上智大学の大学院時代に、三井記念病院から「ME部を新設するから」という誘いに「医療の中に工学を」と心に秘めて、入職(72年)したのが医療界に携わるきっかけ。クリニカル・エンジニアリングへの挑戦が始まり、人工臓器・医用機器の発展・普及とともに「ME技師人材の重要性」を提唱。
 ME技師の国家資格を厚生省に働きかけ(77年)、日本ME学会で検定試験を実施(79年)、医療関連学会とも連携するなど東奔西走、10年がかりで「臨床工学技士法」が87年に成立した。
 そのご、23年間勤めた三井記念病院を退職(94年)、臨床工学技士の教育の道に入り、日本工学院臨床工学科、神奈川県立保健福祉大学などを経て、2011年に本学教授に就任。医療機器承認基準等審議委員会委員長、臨床工学技士国家試験委員など務め、主な著書に「医療機器早わかりガイド」(秀潤社、2010年)「MEの基礎知識と安全管理」(南江堂、2008年)ほか。
 研究課題のメインは「臨床現場における医療機器の安全に係わる研究」で、電気メスの研究に関してはわが国で第一人者。大学の先生は「分かってもらってナンボの世界」、学生が理解できないのは「学生に問題があるのではなく、教える側の責任」だとキッパリ。
 趣味は少年時代(鉱石ラジオ・真空管ラジオを作っては壊した)から続く「電子工作とSF」。信条は過去、未来にこだわらず「今を力の限り生きること」。愛犬のJuliaとともに過ごすのが寛ぎ、安らぎの時だという。



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