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No.25 生活者としての視点「人と環境との接点」という考え方

教員による医療安全の提言シリーズ 25

生活者としての視点―“人と環境との接点”という考え方

滋慶医療科学大学院大学
専任講師(博士・人間福祉)
小野摩耶



 ソーシャルワークでは、患者さんを“生活者”として捉えます。私たちソーシャルワーカーは常に、“人びとを生活の主体者として捉える”という視点で関わります。


 ソーシャルワーカーは、生活に関するさまざまな問題を、ご本人のニーズに「寄り添いながら」一緒に解決していきますが、その際に重要な介入の視点があります。それは「人と環境との接点(interface)への介入」という視点です。ソーシャルワークは、人(individual)と環境(environment)を一体として捉えています。


 人は、必ず何らかの環境に取り囲まれており、その中で生活しています。この環境には、病院や介護施設といった物理的なものは当然のこと、経済状況、介護保険などの制度、介護の担い手、ご家族、近隣との関係、地域社会、そして医療職者、ソーシャルワーカー自身まで、患者さんご本人の生活を取り囲むありとあらゆるものが含まれます。人は環境との接点(interface)でさまざまなやり取り(交互作用transaction)をしながら生活しているのです。


 一般的に援助・支援と聞くと、問題を抱えたご本人に対して働きかけや介入を行い、ご本人の変容を求めるというイメージがあるかもしれませんが、ソーシャルワークはそれだけにとどまりません。患者さんを取り巻く環境の中で、“生活のしづらさ”を引き起こす原因となっている環境そのものの調整・改良も行います。


 そして、人は環境との接点(interface)でさまざまなやり取り(交互作用transaction)をしているところに、何らかの摩擦が起き、その結果“生活のしづらさ”が生じていると考えていますから、その接点にも介入をして、人と環境との間の摩擦の解消(調整)を行います。つまり、ソーシャルワークは、人、環境、人と環境との接点の3者に働きかけを行うところに特徴があると言えるでしょう。


 さらに、生活の問題解決を問題の起こったその都度、細切れに行うのではなく、長期的視点に立ち、ライフコースの中でさまざまに生じる生活の問題に対して、地域に存在する多様な社会資源(先述した環境)を適切に活用しながら継続的に援助・支援するという「マネジメント」の役割の重要性が強調されています。こうしたマネジメントの役割を芝野松次郎教授(関西学院大学院人間福祉研究科)は、「人と環境のインターフェイス・マネジメント(PEIM:person-environment-interface management:ピーム)と呼んでいます。この考え方は、病院や地域で病気とともに(病気を抱えながら)生活していく患者さんの生活支援に有効なものと言えるでしょう。


 ここまで述べてきたように、患者さんを生活者として捉えると、病気が治っただけ、あるいは、退院後の生活環境が整っただけでは、患者さんの抱える生活のしづらさの問題は解決しないことがわかります。患者さんの“人と環境との接点”に介入することができて初めて問題は解決されていくのであり、また問題が起こったその場限りではなく、長期的視点で患者さんの生活をマネジメントしていくピームという考え方が重要なのです。


 少し視点を変えてみることで、患者さんの病院での生活、地域での生活に対する見方や見えてくるものも変わってくるのではないでしょうか。ソーシャルワーカーの視点を広く知っていただき、仕事を理解していただくことも「医療安全の風土づくり」に繋がっていくのではないかと思います。


引用・参考文献
 芝野松次郎・小野セレスタ摩耶・平田祐子『ソーシャルワークとしての子育て支援コーディネート− 子育てコンシェルジュのための実践モデル −』(関西学院大学出版会、2013年3月末刊行)
 社会福祉士養成校講座編集委員会編集『相談援助の理論と方法Ⅰ』(中央法規出版、2009年)





Aさんの生活を取り囲む環境のイメージ(筆者作成)




小野 哲章
教授
小野 摩耶 (おの・せれすた・まや)
プロフィール

 1977年生まれ、神戸市出身。2001年神戸女学院大学卒、06年関西学院大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程単位取得、社会福祉士資格取得、08年同大学院人間福祉研究科博士後期課程修了(博士・人間福祉)。関西学院大学非常勤講師などを経て、11年に本学専任講師。


 主な研究・調査活動としては、
 修士論文では、10年ほど前に大きな問題となった保育所の待機児童問題に注目し「保育の需要分析」を行いました。博士論文では少し視野を広げ、子ども家庭福祉分野の行政計画の評価について研究しました。その内容は加筆の上、単著『次世代育成支援行動計画の総合的評価‐住民参加を重視した新しい評価手法の試み』(関西学院大学出版会、2011年)として出版しています。また、共同研究としては児童虐待防止、地域における子育て支援、家庭訪問型子育て支援などの実践モデル開発に関わっています。社会福祉研究は「現場や当事者の方との協働なくしては前に進まないところ、現場で使えるものでなければならないところに面白みがある」と思っています。




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