トップ > 教員による医療安全の提言シリーズ > No.26 ところで安全とは?

No.26 ところで安全とは?

教員による医療安全の提言シリーズ 26

ところで安全とは?

滋慶医療科学大学院大学
助教(博士・人間科学)
岡 耕平



 医療安全に関する本学教員によるリレーコラムは、すでに20回を超えて2巡目になっています。これまでのコラムは
https://www.ghsj.ac.jp/archives/category/column_iryoanzen
で読むことができます。私自身、それぞれの先生が書かれたものを読み、医療安全にもさまざまな視点があるものだと、今さらながら感心しております。


 そしてひとつ興味深いことがありました。それは、それぞれの執筆者の間で「安全」という言葉の位置づけが異なるように思えることです。安全という概念は誰でも知っています。しかしながらそれぞれの人の考える安全は異なっています。また、同じ人でも文脈や目的によって安全という言葉の意味するところは変わってくるでしょう。だからこそ「安全という状態を作ることは難しい」わけです。誰もが安全という言葉の意味を知っています。しかしどのような状態が安全なのかと問われれば、即答できる人は少ないのではないでしょうか。


 例えば「安全」をデジタル大辞泉で引くと、最初に出てくる説明は「危険がなく安心なこと」とあります。わかったようでわからない説明です。ここからわかることは安全とは「危険」のカウンターパートとして存在するということです。そしてこれを理解するには次に「危険」とは何かを考える必要が出てきます。さらに、もうひとつわかることは「安心」というように、その状態を認識する人間側の心理とも関係しているということです。


 このような安全の定義について、世界で最も広く受け入れられているものは国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)の定義です。ISOのガイドラインの中に ISO/IEC Guide 51(Guideline for their inclusion in standards)という安全規定を導入するためのガイドラインがあります。これは日本規格協会(JIS)の規格(JIS Z 8051)としても採用されています。


 ここでは安全性とは「受容できないリスクがないこと」と定義されています。重要なことは安全とは「リスクがないこと」ではないということです。実際、環境においてはリスクがないという状況はあり得ません。そのためリスクを把握した上で、そのリスクが受け入れられる状態になっていることが安全として重要になるわけです。そのためにはまずリスクとは何か定義する必要があります。その上で、リスクをアセスメントする必要があるわけです。


 そうすることで初めてリスク低減の方法が検討・提案できます。このように安全というものを階層的に捉えることによって初めて、具体的な安全対策に結びつける素地ができます。このような背景のもとで、「リスクをどのように考えて捉え測るべきか」「どのように対策すべきか」を考えるにあたって、学問が必要になるわけです。実際の職場において、安全という状態を保つためには知っておくべきことが沢山あります。そのような観点から、リレーコラムを読み返すとまた面白みが増します。



岡 耕平
助教
岡 耕平 (おか・こうへい)
プロフィール

 1978年大阪生まれ、2007年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程を単位取得退学。2009年博士(人間科学)。2006年より日本学術振興会特別研究員を経て、2007年から2011年まで東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野特任助教、2011年より滋慶医療科学大学院大学助教。
 知的障害のある人のガイドヘルパー、小規模作業所での作業支援、職場内での就労支援コーディネートの経験をもとに、障害や病気で困難をかかえた人の生活・学習・就労を支援するためのテクノロジーの活用や環境調整による具体的な支援方法とその効果について研究。
 2005年日本認知心理学会優秀発表賞、2007年関西心理学会研究奨励賞、2011年日本職業リハビリテーション学会奨励賞、2013年ヒューマンインタフェース学会研究会賞受賞。


 学生時代に知的障害のある人の余暇活動支援のボランティアをしたことがきっかけで、この分野の研究を始めて15年が経ちました。「まだまだ修行中」です。障害のある人の支援の研究はまだまだやられていないことが多く、「ライフワークになるのではないか」と思っています。




バックナンバー一覧はこちら

教員による医療安全の提言シリーズ