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No.31 手術を安全に遂行する

教員による医療安全の提言シリーズ 31

手術を安全に遂行する~

滋慶医療科学大学院大学
教授(医学博士)
米延策雄



 「初めてのお使い」というテレビ番組が時に放送されます。企画の内容はおおよそ次のようなものです。小さな子供が親に頼まれ、生まれて初めてお使いに行きます。この様子をカメラが追っかける一種のドキュメンタリーです。周囲にはテレビススタッフが隠れて配置され、安全が確保されているものの、子供の健気な頑張りと母親のはらはらどきどきが併せて放送され、笑いと涙腺を緩ませる仕掛けとなっています。これを見ていて、ふと研修段階の外科医の姿が重なって見えました。

 母親(患者さん)に「一人前と認められ」、お使い(手術)という「重大な任務」を与えられます。そして、たとえば、「カレーを作るから(目的/たとえば坐骨神経痛を治す)、お肉とタマネギとニンジンとカレー粉を買ってきてね」と説明される(目標設定/ヘルニアを取る)。そして、「スーパーの手前の交差点は車が多いから、それを避けてこれこれの道を通って行くのよ(術前計画)」。

 子供(外科医)は初めてという不安を感じながらも、責任を果たすべく、出かけます。しかし、追いかけるテレビに映されるその子(外科医)の足取り(手さばき)は、母親の目からは、いかにも危なげです。そして、その子が「任務(手術)を果たさなければならない」との強い決意は表情から見てとれますが、実際に何をするために(手術の目的)、何を買えばよいのか(主操作)、予め(術前検討)言われているが、本当に理解しているか。そして、店屋への途中では交通量の多い道路わき(大血管、神経)を歩いたり、道を間違えたりする(誤進入)。そして、時には嫌いな犬や怖いと思っているおじさんに出くわす(予想外の出血や展開困難)。そこでめげてしまって、泣きながら帰ってくる子もいます。

 店に着いて、いよいよ目的の品物を探す、あるいは注文する段になります。往々にして、目標を曖昧にしか理解出来ていないので、案の定、数や種類を間違えたり、時には他のものに気をとられたり(神経根除圧が目的であるが、ヘルニア摘出が目的となり、神経根を無理に牽引する)、します。あるいは、目標がわからなくなったのに、店の人に聞くことも出来ない子もいて(指導との相談)、そこらのものを買って(ヘルニアらしきものを取って)済ます子もいます。

 買い物を済ませて、自分ではうまく出来たと、意気軒昂で帰る子、自信なさそうに慫慂としながら帰る子もいれば、初の大仕事に疲労困憊の体で帰る子もいます。そして、我が家に辿り着き、母親に買ったものを見せる(術後説明)。買い物袋を開けて、うまくいっていれば、バンザイですが、そうでない場合もあります。しかし、潰されたトマトや大量の肉を困惑の眼で見ながらも、母親は「よくガンバッタね。有り難う」と子供を抱きしめ、視聴者の涙腺が緩む。最後の段落だけが、特に昨今の時代、外科医に当てはまりません。完璧であれば、「有り難うございました」くらいはありますが、買い物籠の中味に間違いがあればもちろん、袋が傷んでいても、酷く叱られかねません。

 このような日常のことも、医療安全という視点に立てば、いくつかのことが見えてきます。一つには、外科医の頭の中に、母親の目のようなもの、つまり外科医が自分の行動を俯瞰する意識を持てば、タスク管理がよくなります。このように「自分を自分でモニターすることの重要性」は初心者のみに必要なものではなく、熟練した外科医にも必要です。これが「チームマネージメント」にも役立ちます。現在、タイムアウトや術後のデブリーフィングなど他の業界で導入されている手法も安全な手術遂行のために導入されつつあります。しかし、手術の全過程が管理されているかというと疑問です。また、侵襲的な検査や内視鏡治療なども同様です。手術や検査の多くに名人、名医は必要ありません。「確立された手技を確実に行うこと(その課程管理を含めて)が基本」であることを外科医だけでなく、多くの医療職の教育にしっかりと入れて、文化にすることが必要ではないでしょうか。



重要ポイント
①プロセス管理
 手術は象徴的ですが、医療行為の多くは複数の処置からなる一連のプロセスで、その管理が必要です。

②管理者の役割
 プロセスには管理者が必要です。そして、過程の進捗を認識、評価することが必要です。

③チームで情報共有
 管理者(手術なら術者)だけがプロセスを把握しているのではなく、チームがそれを明確に認識しておくことが必要です。



米延策雄教授
教授
米延 策雄 (よねのぶ・かずお)
プロフィール

 1947年生まれ、徳島県出身。73年大阪大学医学部卒。
85年学位取得(医学博士・大阪大学)
大阪大学整形外科助手、Michigan州立大学、CaseWesternReserve大学でリサーチフェロー、大阪大学整形外科講師、国立療養所刀根山病院整形外科医長、大阪大学整形外科講師、関西労災病院整形外科部長、大阪大学整形外科助教授、大阪大学医学部臨床教授、国立病院機構大阪南医療センター院長を経て、2013年に本学教授。
 日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本腰痛学会、日本コンピュータ外科学会などで理事ほか要職を務め、欧米の学会でも活躍。著書に「リスクマネジメント脊椎手術」(南江堂、2005年)、「腰椎椎間板診療ガイドライン」(南江堂、2005年)他。


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