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No.34 生命システムの安全弁の鍵を担うフィードバック機構について

教員による医療安全の提言シリーズ  34

生命システムの安全弁の鍵を担うフィードバック機構について

滋慶医療科学大学院大学
教授(医学博士)
礒橋文秀


 ヒトや生物の、“安定性”や“頑強性”を保つシステムには、前回(No10)で記載しましたようなフェイルセーフ機構に加えて、もっと精緻な自己調節機構があります。生物において最もよくみられるのは、フィードバック制御(feedback control)です。これには、正のフィードバック制御(positive feedback)と負のフィードバック制御があります。正のフィードバック制御では、生命物質の代謝や合成の産物(生成物)の蓄積増加が、更に産物の蓄積増加に拍車をかけるシステムで、枯渇している生体物質を一気に増産する場合に有効です。しかし、一歩間違えると、安定を乱して破綻に追い込まれることにもなりかねないのです。おもわず、日本の国債を想像してしまいます。生物では、あまりこのシステムは採用しません。

 逆に多くの場合、ヒトや他の生物は、負のフィードバック機構を『生命現象の安全弁』として利用します。すなわち、生成物が蓄積するにつれて、生成速度が低下するシステムを採用しています。 多くの代謝経路調節(代謝酵素調節)(図1,図2参照)やホルモン分泌調節に一役かっています。

節に一役かっています。


図1 正のフィードバックは生成産物(P;product)が蓄積すると、生成の経路の酵素E1活性が増大し、生成経路が活発になり生成産物Pが沢山生産されるようになります。


図2 負のフィードバックは生成産物(P;product)が蓄積すると、経路上の酵素(E1; 主として経路の最初の酵素)の活性が抑制され阻害されて、生成産物Pの蓄積が減少することになります。




 生体代謝上で作動する負のフィードバック機構は、フィードバック阻害(feedback inhibition)機構ともよばれています(フィードバック機構とフィードバック阻害は、厳密に言えば異なっていますが、その違いをここでは解説しません)。これは図中の中間体Bや中間体Cや最終産物のP の蓄積が、反応を逆戻りさせたり、押し返すのではなく、Pの分子そのものが直接E1(代謝経路の最初の酵素)酵素と結合し、阻害作用により、生成物を減少させるのです。繰り返しますが、図1の場合、経路上のA→Bを触媒する特異的酵素E1を阻害し活性を減少させるのです。結果としてPPPPPPの蓄積が減るのです。言い換えれば、B→Cを触媒する酵素や、C→Pを触媒する酵素には、なんら影響しないでPの生成量を減らすのが特徴です。

 一方、酵素代謝調節と異なり、ホルモン分泌調節機構における負のフィードバック機構には、A→BのみならずB→CやC→P(P;この場合、最終末梢内分泌ホルモン)の段階で、途中のBやCやPのホルモンが前のほうの段階のホルモン産生や分泌に、各段階で抑制的に影響を及ぼすことが知られています。

 生体の正のフィードバックの例にはふれませんでしたが、筋肉運動する前のウオーミングアップの分子機構におけるAMPの役割や、血液凝固の増幅システム等が知られています。しかしそのような場合でも、ブレーキ機構も作動しますので、システムの崩壊は回避しています。



重要ポイント

① 生命システムの安全弁
② フィードバック機構
③ 正のフィードバック機構
④ 負のフィードバック機構


田村由美教授
教授
礒橋 文秀 (いそはし・ふみひで)
プロフィール

 1941年生まれ、大阪出身。1967年大阪大学医学部卒、68年医師資格取得。72年大阪大学大学院医学研究科博士課程修了、同年米国オハイオ州クリーブランド市ケース・ウエスタン・リザーブ大学医学部・生化学研究員、81年から大阪大学医学部付属癌研究施設腫瘍生化学教室の講師を経て、94年聖マリアンナ医科大学医学部教授、2007年同上大学の客員教授。11年本学教授。
 日本生化学会、日本分子生物学会ともに評議員。日本ビタミンバイオファクター協会理事 著書に「医学を学ぶための生物学人体の機能10章・内分泌系」(南江堂、2004年)


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