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No.35 専門職としての実践とリフレクション

教員による医療安全の提言シリーズ  35

専門職としての実践とリフレクション

滋慶医療科学大学院大学
教授(博士・保健学)
池西 悦子



 近年、国民の医療の安全と質への関心は高まっており、医療に従事する専門職は医療安全の担保を最重要課題として組織の体制整備などに取り組んでいます。また、個々の看護職も医療の質を担う者として、その状況で最善だと思われる実践に努めています。
しかし、看護職が向き合う状況は、多くの問題が絡み合い複雑であることから、何が最善であったのかを明らかにするのは難しいのが現状です。

 先日、ボランティアで健康チェックに参加していた若い看護師Aさんが、終了後次のような話をしてくれました。今は病院で仕事をしていないため、ここでの来所者とのやりとりは、まだ看護師だと思えて楽しいけれど、看護師としての自分の判断の悪さに落ち込むことがあるとのことでした。当日は血圧測定の担当で、次に並んでいた人をみると薄い上着を肘関節の上までたくし上げて、準備をしてくれていたそうです。その腕を見ると「キュッ」となっていて、上着を脱いでもらった方が良いかと思いましたが、せっかく準備してくれているし、薄いからとそのまま測定したそうです。しかし、普段の値より高いと暗い感じになったので、結局脱いで測り直したそうです。
     
 何が一番気がかりなのかを問うと、あの時血圧を正しく測ることが第一で、腕が締まって高くなるかもと思ったのに、患者さんの気持ちを汲んでという理由をつけて、「状況に流された自分が悲しい、私はいつもそう」と答えてくれました。列が長くなっていた事を知っていた私は、その時、他に気になっていたことはなかったかと問うと、「ああ・・・焦っていました。私のところだけ長かったですもの」と笑いました。次も血圧を担当することを決め、今の話の状況はきっとまたあるから、解決する方法を考えてみようということでその日は終わりました。

 2週間後、Aさんは血圧測定の机の前に、血圧を正しく測るために上着を脱いで準備をお願いしますと書いた絵つきの札を準備し、来所者はそれを見て準備をしていました。
その札は有効だったということで、それからも継続して使われ、Aさんはまた楽しくボランティアに行けると笑顔で話していました。

 このように実践から学ぶ手法の1つとして「リフレクション」があります。リフレクションは、実践の終わった後に行うReflection on actionと、実践の最中に自分の思考を客観的に捉え、過去の経験からの学びを活用しながら問題解決に導くReflection in actionがあります。実践後のリフレクションで学んだことを、次の実践の中で活用するというように二つのリフレクションの連鎖が、より質の高い実践を導いていくと考えます。

 リフレクションによって問題が解決できた場面を分析すると、どれも実践者自身が上手くいかなかった実践を気がかりに思い、本気で何とかしたいと思っていました。
日々多くの実践を行う看護師にとって、実践すべてが学ぶ機会でもあります。看護専門職である私たち一人ひとりが、『今日の実践は私の目指した看護であったか。患者様にとって意味のあるケアになっていたのか―を問うことも、医療の安全や質の担保を支えていく』のではないでしょうか。


重要ポイント

① リフレクションを通して、実践から学ぶ
② 日々の実践を通して、自分自身と実践のあり方を問う
③ 看護専門職として自分の仕事に責任を持つ


池西 悦子教授
教授
池西 悦子 (いけにし・えつこ)
プロフィール

 兵庫県出身。1986年国立療養所兵庫中央病院附属看護学校卒、90年近畿大学法学部卒、2000年兵庫県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了、2008年神戸大学医学系研究科博士課程修了(博士・保健学)
 岐阜県立看護大学看護学部講師、園田学園女子大学人間健康学部人間看護学科准教授、神戸大学保健学研究科非常勤講師などを経て、2013年本学教授。


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