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No.37 医療現場におけるコミュニケーションエラー防止策

教員による医療安全の提言シリーズ  37

医療現場におけるコミュニケーションエラー防止策

滋慶医療科学大学院大学
教授・医学博士
江原 一雅

 医療現場における、インシデントの原因として個人の単純ミスもその一つですが、複数の職種間でのコミュニケーションエラーも重要な原因の一つです。ハーバード大学関連病院群の医療過誤損害保険事例を取り扱っているRisk Management Foundationによると、手術に関連した紛争事例の分析では、技術的問題が69%、コミュニケーションの問題が47%、判断の問題が45%を占めています。(複数回答)

 民間航空業界においても、事故の原因分析の結果、機器や天候の問題よりクルーの人的問題の方がはるかに大きな問題(70%以上)であるとの結論に達したという(ボーイング社の調査)。これらの経験により人的な要因(ヒューマンファクター)の評価と訓練が重視されています。英国のアバディーン大学産業心理学研究所のFlin教授らのグループはこれらの人的要因のうち、状況認識、意思決定、リーダーシップ、チーム協調、ストレス・疲労管理の問題を総称して、専門職のスキルに加え「ノンテクニカル・スキル」と称し、医療現場の特に手術室においてその評価と訓練の重要性を強調しています。一方、米国においては、米軍病院を中心に、「チームステップス」という訓練法が普及し、我が国でも紹介されています。

 医療現場において、情報伝達エラーによる事故が多数報告されています。一例をあげますと、電話で「○○薬を半筒お願いします」という医師からの指示に、聞いた看護師は○○薬3筒と理解し、それが注射された事故が報告されています。このような情報伝達エラーの防止策としては、航空業界や海運界の技術である、「復唱」が推奨されています。情報の受け手がそれを繰り返すことにより、情報発信元は受け手が正しく理解したことを確認できます。また、情報発信の際には、付加情報を追加する「冗長性」もあります。例えば「T」は「P」などと誤りやすい。その場合「Tom のT」というように、付加情報を伝えることで伝達ミスを減らせます。医療現場においては依頼した内容の説明を追加することによって、伝達の誤りを避けることができます。

 また、コミュニケーションの問題は通常の業務以外に、患者の状態に危険が迫っている際に、そのことを的確に相手に伝え、適切な対応が求められる必要がある場合にも重要です。その際には、通常の5W1Hではなく、危機的状況を相手に認識してもらうためにSBAR法が推奨されています。すなわち①Situation,状況:まず現在の状況を簡潔に伝え、②Background,背景:次にその患者背景を簡単に述べ、③Assessment,判断:自分がどのように考えているかを述べ、④Recommendation,推奨:最後にどうしてほしいか、要望や提案を伝えます。SBAR法も航空業界から導入されました。このように他の産業のエラー防止策が有用で、それを医療現場に導入するためにはシステマティックな訓練が推奨されています。


重要ポイント
コミュニケーションエラー防止策として
① システマティックな訓練
② 復唱・付加情報で誤認を防ぐ
③ SBAR法など他産業から導入


江原 一雅教授
教授・医学博士
江原 一雅 (えはら・かずまさ)
プロフィール

 1949年生まれ、大阪市出身。1975年神戸大学医学部卒、医師資格取得。82年神戸大学大学院医学研究科博士課程単位取得、90年学位(医学博士)取得。米国フロリダ州マイアミ・マウントサイナイ病院ボームリッター核医学研究所研究員などを経て、96年神戸大学医学部脳神経外科学講座助教授、2000年同大学医学部附属病院総括リスクマネージャー危機管理室副室長、10年同大学大学院医学研究科外科系講座教授。11年本学教授。神戸大学大学院医学研究科客員教授。
 著書に「医療事故初期対応」(医学書院、2008年)、「脳神経外科学大系第7巻脳腫瘍Ⅱ」(中山書店、2004年)他。日本脳神経外科学会学術評議員、医療の質・安全学会プログラム委員、医療事故・紛争対応研究会機関誌編集委員長などを務めている。


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