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No.38 医療安全と病院経営の関係

教員による医療安全の提言シリーズ  38

医療安全と病院経営の関係

滋慶医療科学大学院大学
准教授(経済学博士)
田中 伸

 病院経営の財務の話を前回(12回)に少ししましたが、今回は財務というものが何に使われるのかについてお話をします。企業においてはいまさらなのですが、病院の運営にとっても会計のデータが非常に役に立ちます。

 まず組織自体に占める情報の重要性が増しています。組織を動かすには、まずどんな形で経営をしているかをつかみ、その情報に従ってこれまでの経営管理を分析して反省を行い、どこに修正を加えるのかを決定していく必要があります。

 簡単に例を挙げますと、小さなクリニックにおいては経営の情報は院長と経理を見ている事務長(配偶者であることが多い)、さらには看護師その他の職員がいます。ここでは、院長と事務長とでまずは経営管理のデータが共有され、看護師や職員などスタッフとミーティングを行うことで改善されます。組織を管理者がすべて見渡せており、スタッフも院長がどのようなクリニック運営を行うことを望んでいるのかは直接聞くことができます。こういう組織では、スタッフ間のコミュニケーションもとりやすいので、経営を文章にせずとも日々改善を行うことができます。

 それに対して、少し大きな組織を見ていくことにしましょう。少し大きなクリニックを何軒か経営している法人を考えましょう。理事長が1つの院長を兼任していても、別のクリニックには他の院長がいます。同時に2カ所の院長をすることはできませんので、組織に命令系統が出始め、クリニックごとに経営管理をする必要が出てきます。

 このときに重要なことのひとつが、数値による管理となります。主には予算と統制という手法がとられ、各部門(ここでは各クリニック)に目標値が割り当てられます。それに従って予算が割り振られ、その後に達成度を計ることで組織の統制を行うという手法をとります。

 ここから発展してより大きな病院組織になってきたとしましょう。外来診療科も増え、入院診療、さらには手術室などの専門的な部署もでてきます。それらをサポートする事務部門をはじめ各スタッフの数や種類も多くなってきます。各診療科と入院のベッドや手術室の間の連携や命令系統はどのようにしていけばよいのでしょう。

 例えば、手術室の医師は手術が最も効率的になされるように運営したいと思いますし、各病棟の看護師は所属病棟のベッドがなるべく埋まるように運営していきたいと考えます。さらには、各診療科では患者さんの症状によって、緊急性のあるものから順番になるべく早く診療をしていきたいと考えるでしょう。そのために緊急入院の場合も考えて、できる限り自分の診療科に多くのベッドを使う権利を残しておきたいと考えるでしょう。

 しかし、各診療科が自分のエゴを出しては組織として成り立ちません。当然組織として最適な行動をとる必要があります。このような際に、数字でマネジメントを行うことにより、より効率的な組織運営が果たせます。ただし、ここで効率性や生産性をあげるということは、前回の財務的なコスト戦略だけでは説明できません。組織を運営してくためには、マネジメントの会計である管理会計にも言及する必要があるからです。

 例えば有名なドラッカーの言によりますと―

【参考】生産性に影響を与える要因
(p.19-20 『マネジメント エッセンシャル版』ダイヤモンド社
 ドラッカー,p.f.,上田惇生編訳,2001年)

 「顧客の創造という目的を達成するには、富を生むべき資源を有効に活用し、生産的に利用しなければならない」としています。資源を活用し、生産性を向上させることが、企業の管理的機能です。労働・資本・原材料など会計的財務的に生産性を向上するものとされてきたコスト以外に、マネジメントの世界では重要視される必要があるものとして、以下のことをあげています。

「知識」- 知識は正しく利用したとき最も生産的な資源となる
「時間」- 最も消えやすい資源である。有効に活用できるか否かで生産性に差ができる。
「製品の組み合わせ」- プロダクトミックス(病院においては診療科など)
「プロセスミックス」- 部品をつくるのと買うのはどちらが生産的かなど(どのようにベッドをコントロールすべきなのかなど)
「自らの強み」- 選択と集中(マネジメントの有用性と限界を知る)
「組織構造の適切さ,および活動間のバランス」- マーケティングを軽視して、技術偏重型の組織になっていないか?

 このように、経営管理を客観的に行おうという工夫が、これまで企業ではなされていて、それが現在病院の中にも取り入れられるようになっています。また、さらに経営管理が行き届くことで、組織の中での役割と責任の範囲がはっきりとし、そのことが医療の安全にも貢献するものと期待されています。


田中 伸准教授
准教授(経済学博士)
田中 伸 (たなか・しん)
プロフィール

 1997年立命館大学経済学部卒、99年龍谷大学大学院経済学研究科博士前期課程修了、01年立命館大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、05年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(博士・経済学)。龍谷大学、立命館大学、徳島文理大学などで講師を務め、11年本学准教授。著書に「日本型MOT」(共著、中央経済社)他。


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