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No.39 患者参加が創る新しい医療のカタチ

教員による医療安全の提言シリーズ  39

患者参加が創る新しい医療のカタチ

滋慶医療科学大学院大学
准教授(博士・看護学)
飛田 伊都子

 本屋に立ち寄ると入リ口付近の積み上げ棚には医療に関する書籍が多く目に付きます。特に最近は、医療現場で起きている事故や紛争を例に挙げ、医療の崩壊や医療の限界にまで言及しているものが目立ちます。それらの執筆者が概ね医師であることに驚くばかりです。医師による医療に対する問題提起なのでしょうか。そこに一つの『あたりまえ』の課題が明示されています。

 医療は誰のために行うものであるのか。

 この質問に回答できない医療者はいないと思いますが、今、これが議論の的になっています。また世間一般にはこの問い自体が愚問であると批判する方もいるでしょう。しかし、これは決して愚問ではなく、この認識の齟齬が難題を生じているのです。

 医療の長い歴史の中で、患者と医師の間にはパターナリズムの関係が続き、患者は医師の指示に従うという受け身の立場でした。医師が治療を選択し、医師が薬を決定し、そして患者とその家族はそれに従うような文化がありました。そして、患者は自身の身体と健康の問題であるにも関わらず、医療に対して意見を述べることや選択する自由はほとんどありませんでした。しかし、現代医療における患者の立場は変化してきています。地域や施設によって多少の違いがあるかもしれませんが、それでも着実に変化しています。今や「患者は医療の中心であり、医療は患者のために行うもの」であることに異論を唱える医療者はいない、といっても過言ではないでしょう。

 そこで次なる課題は、医療の目指すものは何なのかという問いです。

 今、「患者が医療に参加することが求められる時代」へと変遷しています。患者の参加なくして上記の問いに対する答えを導くのは不可能です。つまり、これが、『今求められている医療の新しいカタチ』であると筆者は考えています。医療は、患者が求める理想的なカタチへと変貌する時代が到来しているのです。

 では、患者が医療に参加するということはどういうことなのでしょうか。The US National Library of Medicineによると患者参加(patient participation)は「健康課題に関連する意思決定過程における患者の関与」と定義されていますが、これは狭義の定義であると考えます。論文等の文献では、「患者エンパワーメント(patient empowerment)」や「パートナーシップ(partnership)」「患者コラボレーション(patient collaboration)」「患者関与(patient involvement)」のような用語と同義語として扱われることも多いようです。また、その活用場面も様々であり、意思決定(decision making)や自己投薬(self medication)、患者教育(patient education)場面など多岐にわたります。しかし、わが国における患者の場合、意思決定以前の問題で、「意思表示することすら困難に感じている患者が多いのが現状」です。つまり、患者は自らが望む治療やケアを表出することも難しいのです。

 そこで必要なのは、医療者によるアドボカシーとしての支援が必要であるということです。アドボカシー(advocacy)とは、弁護・支持・擁護と訳されており、主張の代弁等を通じて権利を擁護する活動的支援を意味しています。医療の領域で主としてこれを担う最もふさわしい職種は看護師ではないでしょうか。患者参加のために医療者がなすべき行動は、「患者の病態を把握した上で、患者の生き方を支援する」こと、これが求められる時代が来ています。


重要ポイント
医療への患者参加はココから始まる
① 医療の目標を明確化することから
② 患者の参加は意思表示から
③ 医療者はアドボカシーとして支援行動から


飛田 伊都子准教授
准教授(博士・看護学)
飛田 伊都子 (とびた・いとこ)
プロフィール

 1969年生まれ、長崎県出身。93年山口大学医療技術短期大学看護学科卒、看護師免許取得。99年オーストラリア連邦ニューカッスル大学看護助産学部卒、02年シドニー大学大学院看護助産学研究科修了、09年大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻統合保健看護科学分野修了(博士・看護学)。11年本学准教授。
 03年鳥取大学医学部保健学科助手、05年京都大学医学部保健学科非常勤講師、08年同大学人間健康科学科非常勤講師、09年滋賀医科大学医学部看護学科非常勤講師、10年スイス連邦工科大学組織・労働科学センター客員研究員。
 著書に「ナーシング・グラフィカ(13)健康の回復と看護・脳神経・感覚機能障害」(メディカ出版、2005年)ほか。
 2013年から本学で開講する「患者参加論」を主担当する。当該講義は、わが国で初めて「医療における患者参加」のあり方を学際的に講義する。


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