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No.40 医療安全は医療チームと患者がともに作る

教員による医療安全の提言シリーズ  40

医療安全は医療チームと患者がともに作る

滋慶医療科学大学院大学
教授(医学博士)
木内 淳子

 わが国の「国民皆保険」は、すべての国民が良質の医療サービスを受けることができる素晴らしい医療制度であると言えます。また、国民による「職業別の信頼度」では、医療職者が最も高かったという調査結果もあります。その良質な医療サービスは、医師を始めとした医療職者の献身的努力により支えられて来ました。”安全であること” は医療従事者の不断の努力の賜物であることを強調したいと思います。

 例えば、今問題となっている産科医療補償制度に関して考えると、世界的な水準となっている我が国の産科医療において、100万件の分娩において年間約50件の母体死亡があるとされています。しかしお産は安全で無事に生まれて当たり前という認識が一般的であると言えます。この場合お産を控えた妊産婦さんに100万件あたり50件の死亡があるという事実をどのように理解していただくかという問題があります。

 特に分娩は、病気ではなく期待され望んで産むのですからその落差は大きく、他の分野と比較して訴訟に至りやすいと言われています。筆者の専門領域である麻酔科の領域においても、挿管困難、術中大量出血、悪性高熱症など確率は低くても発症した場合には対応が困難で、場合によれば死亡に至る合併症が存在します。麻酔による合併症は、一定程度発症する可能性が現在もあり、最新の医療でも死亡率はゼロではないと言えます。

 また患者側の要因としては、高年齢化に伴い循環器系をはじめとする合併症を持った患者さんの手術が増加しています。このように医学医療が進歩する一方で、「リスクはゼロにはできない」とも言えます。ここで重要なことは、『患者さんに医学や医療に関するリスクを正しく理解していただく』ことで、それには難解な医学用語を使用せずに、平易な言葉で説明することが必要です。それは医師のみでなく医療チームとして取り組まないと目的を達成することはできません。

 つまり、医療は不確実なもので、一定程度の確率で不可避の合併症が生じるということです。その場合に患者さんに十分な説明を行っていないとそれが不可避の合併症ではなく、医療者のミスによる医療事故と誤解される可能性が大きいわけです。特に麻酔科医が関係することの多い手術室では、患者家族と切り離されているのでそれに注意する必要があります。手術室で不可避の合併症が生じた場合は、まず第一報と何が起こったかを「いち早く家族に知らせる」ことが紛争を避けるために重要です。手術室での合併症の場合は特に患者さんとの関係ではチームとしての対応が機能することにより、より患者さんからの信頼と透明性が確保できるとも言えます。

 合併症が事故と誤解され、不毛な紛争が生じることのないように、滋慶医療科学大学院大学では、『患者さんとともに医療安全を構築する』という視点で、目的をもって、教員と大学院生がともに学び、研究に励んでいます。


重要ポイント
①医療は不確実なもので、不可避の合併症が存在
②患者さんに医療リスクの正しい理解を促す
③患者さん及び医療チームで情報を共有し医療安全を構築する


木内淳子教授
教授(医学博士)
木内 淳子 (きうち・あつこ)
プロフィール

 1946年生まれ、兵庫県出身。1972年徳島大学医学部卒、医師資格取得、同年大阪大学麻酔学教室入局、2000年滋賀医科大学で学位(医学博士)取得。1989年日本生命済生会附属日生病院麻酔科部長、01年大阪船員保険病院麻酔科部長。02年大阪大学医学部非常勤講師、07年滋賀医科大学医学部非常勤講師を経て、11年本学教授。
 第15回麻酔医事法制(リスクマネジメント)研究会会長などを務め、主な著書に「インフォームド・コンセントその理論と書式実例」(共著、医学書院、2005年)。


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