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医療の質・安全学会、学術集会の総括原稿を掲載しました

『チーム力』をめぐって、議論
—医療の質・安全学会レポート—


シンポジウム

 医療の質・安全学会の第8回学術集会が11月23日―24日に東京・ビッグサイトで、「チームで良くする医療の質、質を支える安全学~現場と社会の協働促進」をテーマに開かれました。全国から約2500人の医療関係者が参加して、白熱した議論が展開されました。


 冒頭の会長講演で清水利夫氏(国際医療研究センター病院・副院長)は「医療者に今後求められるのは、最新の知識習得だけでなく、テクニカル、ノンテクニカル両方のスキルを磨くこと。医療チームを機能的に動かすための“チーム力”が大事です。医療人の教育の仕組みを考えるべき」と問題提起をされました。



—何のために? ミッションの共有が大事—


 引き続き、清水会長と山口裕幸氏(九州大学大学院人間環境学研究院)とで、「医療の質と安全を守り高めるチームづくりをめぐって」と題して、対談形式で意見を交換されました。
 「チームといっても、状況や課題によってクルー、タスクフォース(プロジェクトチーム)、職場全体と、3種類ある。その形態の特性に応じて的確に、機能的な運営が大事」。「チームはゴールに向けて実行するが、その先に何があるか、ミッションをメンバー全員で理解、共有することが必要。何のためにやっているのか、仕事の意味づけ、究極の目標といってもいいでしょう」。
 「チームでやることのメリットは、高いパフォーマンスによって、より良い仕事が出来ます。予期しない事態に対しては、柔軟で適切な判断、くじけず、諦めずに目標を達成する意志力(チーム・レジリエンス)が必要」、「緊急時には“阿吽の呼吸”(暗黙の協調)がチーム力の武器ともなる」という。「良いチームは、皆で何をやっているのか、目標を共有して個人としての役割、職務を果たす。全体の動きをモニターして、その中で自分の役割を果たすこと」。「暗黙値を文字にして形式値に置き換えて、再認識する」ことが必要という。


 また、「チームの安全を支えるノンテクニカルスキル」をテーマにしたシンポジウム(座長=中島和江・大阪大学病院中央クオリティマネジメント部)では、ノンテクニカルスキルの概念、訓練、実践について3人の識者が意見を述べました。



—ブリーフィングが効果的—


 米井昭智氏(倉敷中央病院医療安全管理室)は「ノンテクニカルスキル、チームステップスなどの方法があるが、概念が先行して、どのようにするかについて指針は明確でない」とした上で、職員対象に2種類の一泊二日の医療安全研修会を年間5回開催している―など、その状況を説明されました。2001年から実施している医師対象では、ワークショップ形式の患者対応ロールプレー、警鐘事例のRCA、危険予知訓練の3セッションで構成。2011年からは多職種対象に、作業指示KYまたはSBARロールプレー、事例検討、ブリーフィングの3セッション。特にブリーフィングに重点を置いて、チーム医療への思いを語るなど、ノンテクニカルスキルを多用して効果を高めている、という。



—チームのあり方を考えるべき—


 種田憲一郎氏(WHO西太平洋地域事務局、国立保健医療科学院)は、チームステップスでは「チーム医療の実践に必要なのは、リーダーシップ、状況モニター、相互支援、コミュニケーションの4つのコンピテンシーで、これらは相互に強く関連している。4つを実践することで、知識として患者ケアに関わる共通理解(メンタルモデルの共有)が得られ、相互の信頼とチーム志向が生まれる。これによって、適応性、正確性、安全性などチームのパフォーマンスが向上する。そして「チームで何が出来ると良いか。どうすれば上手く協働できるか。もう一度チームのあり方を考えるべき」と問いかけられました。



—憶えない、黙らせないなど、独自の行動を実践—


 岩村正嗣氏(北里大学医学部泌尿器科学)は、自ら実践している6つのノンテクニカルスキルを紹介されました。①「憶えない」人の記憶は曖昧、記憶していないことは責めず、曖昧に答えることを悪とする。 ②「メンバーの技量を知る」術中は相手の技量を超えない範囲で要求する。 ③「黙らせない」会話を楽しむ余裕を持ち、疑問を気軽に質問し、問題点を指摘できる雰囲気をつくる。 ④「中盤に休憩をとる」気分をリセット、前半の反省と内容の評価を行う。 ⑤「怒鳴らない」メンバーは萎縮して動きが悪くなる。沈黙されると術者の気付かない情報が入らない。 ⑥「限界を知る」腹腔鏡手術で、開腹への移行は引き分け、合併症は論外と考える。
独自の見解をわかりやすく説明されました。そして「安全で質の高い手術を行うには、技術・知識のテクニカルスキルとともに、ノンテクニカルスキルは習得しておくべき重要な能力です」。



【学術集会に参加して】

 多職種によるチーム医療の円滑な推進が医療安全の重要な鍵となっています。
チーム力の発揮は、ビジネス社会においても、スポーツやオーケストラなどでも共通することでしょう。野球では、投手、捕手、野手がそれぞれのポジションの役割(テクニカルスキル)を発揮しつつ、監督のサイン(指示)に基づいて、ヒットエンドラン、バント、盗塁、スクイズなどチームプレーは、状況判断、意思伝達(コミュニケーション)によるノンテクニカルスキルと言えます。
 ビジネス社会において、経営トップ・役員の戦略・方針に基づき、管理職―社員がミッションを共有、ベクトルを合わせた行動によって目標達成に向かう。事業遂行の中では、タスクフォース、プロジェクトチームを編成して、特定のメンバーで情報を共有してチャレンジします。
 テクニカルスキルにおいても個人差がありますが、ノンテクニカルスキルはさらに個人差が出ます。協働によるチーム志向、ベクトル合わせによる行動が大事なのは言うまでもありませんが、個人個人が自覚に基づき日頃の鍛錬によって、いかにしてコミュニケーション力、状況判断力を磨き、ノンテクニカルスキルを身に付けることが必要かと感じています。
 多職種連携の教育に注力している滋慶医療科学大学院大学は、「医療安全実践教育研究会」の設立準備を進めています。研究会は多職種連携の教育方法論を確立するのが目的です。まさに今回の学術集会で関心が集まった「チーム医療の推進」「テクニカルとノンテクニカルの両面のスキルが必要」との議論と合致しており、研究会の発展と役割に期待したい。



(大阪滋慶学園顧問 越智道雄)

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